HIV感染症・AIDS(エイズ)
目次
- 日本における血液凝固因子製剤による感染の現状
- 日本におけるHIV-1流行株の特徴
- 日本におけるHIV/エイズ流行の現状と動向
- 日本におけるHIV/エイズの(サーベイランス)発生動向調査
- HAART(highly active antiretroviral therapy、高活性抗レトロウイルス療法)
- HIV感染症の治療
- HIV感染症のAIDS期の症状
- HIV感染症の症候期の症状
- HIV感染症の無症候期
- HIV感染症の症状
- HIV感染症の初期急性期の症状
- HIVウイルス感染の特徴
- HIV感染症・AIDS(エイズ)
- CD4陽性Tリンパ球数について
- エイズ関連日和見感染症の特徴
- エイズ関連日和見感染症 腫瘍性疾患(悪性リンパ腫、カボジ肉腫)
- エイズ関連日和見感染症 真菌症
- エイズ関連日和見感染症 非定型抗酸菌症
- エイズ関連日和見感染症 結核
- エイズ関連日和見感染症 サイトメガロウイルス感染症
- エイズ関連日和見感染症 カリニ肺炎(PCP)
- HIV感染でみられる日和見感染
- 選択的帝王切開による母子感染の防止
- CDC(アメリカ疾病管理予防センター)の推奨するHIV母子感染対策
- 抗HIV剤による母子感染の防止
- HIVの母子感染の防止
- HIVの母子感染のリスクファクター
- HIVの母子感染の機序
- HIVの母子感染
日本における血液凝固因子製剤による感染の現状
日本におけるHIV/エイズにおいては、血友病患者を中心とした血液凝固因子製剤輸注による感染症例が依然として多いのが特徴です。
血液凝固因子製剤輸注による感染は、1980-1985年の間に生じたと考えられ、加熱血液製剤の導入と非加熱製剤の自主回収後新たな感染は認められていません。しかし、汚染された血液凝固因子製剤を使用されたと推定される約5,000人の血友病患者のうちHIV感染率は約40%であると推定されています。
日本におけるHIV-1流行株の特徴
日本におけるHIV-1流行株は、そのサブタイプと感染経路に密接な関係があるのが特徴です。
血液凝固因子製剤による感染者と男性同性間感染者の大部分はサブタイプBで、日本国籍の異性間感染者の場合はサブタイプEが主流になってきています。またサブタイプA、C、Dも検出され始めていますが、これらは海外の各サブタイプ流行地が推定感染地であると考えられます。
日本におけるHIV/エイズ流行の現状と動向
2000年6月までに報告された日本のHIV感染者は4,500人余り、エイズ患者は2,500人余りに上っています。
HIV感染者のうち、感染経路別に見ると、血液凝固因子製剤:17.2%、異性間の性的接触:37.8%、男性の同性間の性的接触:23.4%などとなっており、血液凝固因子製剤による感染者が依然多いこと、静注薬物濫用、母子感染などによる感染者が少ないこと、男性例における同性間の性的接触による患者と異性間の性的接触による患者がほぼ同数であることなどが、日本における特徴です。
現在日本では、いわゆる爆発的な患者・感染者の増加の可能性は少ないと考えられますが、今後性感染を中心とした患者数の増加が十分に考えられる状況です。
日本におけるHIV/エイズの(サーベイランス)発生動向調査
日本におけるHIV/エイズのサーベイランス(発生動向調査)は、1984年から開始され、翌年初のエイズ症例が報告されました。
1999年には「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律」のなかで、全数把握感染症として扱われるようになり、HIV/エイズのサーベイランスもその一部に含まれるようになりました。
HAART(highly active antiretroviral therapy、高活性抗レトロウイルス療法)
HAART(highly active antiretroviral therapy、高活性抗レトロウイルス療法)は、逆転写酵素阻害剤2剤とHIVプロテアーゼ阻害剤1剤を用いるHIV感染に対する3剤併用療法です。
HAARTは、ウイルスの複製が少ないこと、それに伴い耐性ウイルスの出現が抑制できること、CD4陽性Tリンパ球数の減少抑制または増加が可能なことが特徴ですが、副作用が多いこと、治療費が高くなること、服薬時間が複雑になること、併用薬に注意が必要であることなどの問題点もあります。
また、HAARTでも服薬指示が守られないと耐性ウイルスが出現し効果がなくなってしまうことがあり、一度耐性ウイルスが出現すると薬剤の組み合わせを変更した3剤併用療法を行っても、耐性ウイルスができやすくなるため、服薬指示を守り最初の治療法を維持して行くことが大切です。
HIV感染症の治療
HIV感染症に対する治療薬には、ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤、HIVプロテアーゼ阻害剤の3種類があります。しかし、これらを単剤で使用した場合、初期には効果を示しますが、まもなく耐性ウイルスが出現し効果がなくなってしまいます。
そのため、いくつかの併用療法が検討されてきましたが、現在ではHAART(highly active antiretroviral therapy、高活性抗レトロウイルス療法)と呼ばれる、逆転写酵素阻害剤2剤とHIVプロテアーゼ阻害剤1剤を用いる3剤併用療法が行われています。
HIV感染症のAIDS期の症状
免疫能破綻が進行するとそれが顕在化し、重篤な日和見感染が合併し、いわゆるAIDS(後天性免疫不全症候群)となります。
症状は合併した日和見感染の症状が中心となります。日和見感染としては、カリニ肺炎、カンジダ症、サイトメガロウイルス(CMV)感染症、結核などが多く認められます。
HIV感染症の症候期の症状
有効な治療が行われなかった場合免疫能の破綻が進行し、約10年の無症候期の後、帯状疱疹が現れたり、口腔カンジダ症、下痢などが繰り返すようになります。不明熱や体重減少を示すこともあります。
HIV感染症の無症候期
HIVに感染後、HIVに対する細胞性免疫や、液性免疫ができるのに伴い、臨床的には無症候期に入ります。
この間、症状を示すことはありませんが、HIVの複製は持続しており、感染を受けたCD4陽性リンパ球が破壊され、また未感染細胞もアポトーシスにより破壊して行くので、血中のCD4陽性リンパ球は徐々に減少して行き、免疫能が徐々に破綻して行きます。
HIV感染症の症状
HIV感染症の症状の発現経過は特徴的で、感染初期の急性期に症状が現れた後自然消退し、その後約10年は症状がほとんどなく経過します。その後、再び症状が見られるようになり、AIDS期に至るという経過をたどります。
これらの点に加えて初期症状も軽微なため、HIV感染に気づかずに無症候期に感染を広げてしまう危険性があります。
HIV感染症の初期急性期の症状
HIV感染症の初期急性期には、発熱、咽頭炎、頸部リンパ節腫脹、皮疹など伝染性(感染性)単核球増多症あるいはインフルエンザに類似した症状を示す場合が多くみられます。しかし、これらは急性感染症共通の症状・所見で、この時点でHIV感染に気づくケースは、わずかです。
これらの症状は、2-3週間で自然に消退し、無症候性となります。
HIVウイルス感染の特徴
HIV-1ウイルスは、ヒト細胞上の特定の細胞(CD4陽性Tリンパ球、マクロファージなど)内に侵入感染し、CD4陽性Tリンパ球を破壊します。細胞性免疫の重要な要素であるCD4陽性Tリンパ球が持続的に破壊され、その数が減少していき、免疫不全が顕在化します。それが極端に進行した段階がAIDS(後天性免疫不全症候群)であると考えられます。
多くのHIV感染者では10-15年でCD4陽性Tリンパ球などの免疫細胞が枯渇し、AIDS(後天性免疫不全症候群)に至ります。
HIV感染症・AIDS(エイズ)
HIV感染症・AIDS(エイズ)は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)によって起こる感染症です。日本では血友病患者における血液製剤からの感染例が多かったため、性感染症であるという認識は低い一面がありますが、世界的には90%以上が性感染症として感染拡大が起こっています。
HIV感染症は、感染からはっきりした症状を示すまでの期間が10年以上と長いため、本人が感染しているとの自覚がないまま、性交渉による感染を生じさせてしまうという問題点があります。
CD4陽性Tリンパ球数について
CD4陽性Tリンパ球数(CD4数)は、HIV感染症の進行度をよく反映します。CD4数の正常値は700-1300/μLですが、この値の減少度合いにより、早期HIV感染症(または長期未発症者、ほとんど免疫機能の低下のない状態)、中期HIV感染症(徐々に免疫機能の低下が進行する)、後期HIV感染症(明確な免疫機能の破綻が存在する状態)、末期HIV感染症の4つの病期に分けられます。
エイズ関連日和見感染症の特徴
エイズ関連日和見感染症は、HIV感染症の進行度の指標となるCD4陽性Tリンパ球数の減少に伴い出現してきます。HIV感染症の治療に、逆転写酵素阻害薬とプロテアーゼ阻害剤を組み合わせた多剤併用療法(HAART:highly active antiretroviral therapy、高活性抗レトロウイルス療法)が一般的に用いられるようになり、CD4陽性Tリンパ球数の減少抑制、または増加が可能になってきました。
そのため、HAART導入後のエイズ関連日和見感染症は明らかに減少してきています。
しかしながら、一方でCD4陽性Tリンパ球数の増加に伴い、エイズ関連日和見感染症の増悪をみる場合がある(サイトメガロウイルス感染症、抗酸菌感染症、クリプトコッカス症など)ことも明らかになってきています。
エイズ関連日和見感染症 腫瘍性疾患(悪性リンパ腫、カボジ肉腫)
エイズにおける腫瘍性疾患としては、悪性リンパ腫、カボジ肉腫が大半を占めます。
悪性リンパ腫では脳リンパ腫が多く、カボジ肉腫では、皮膚に初発し、口腔、消化管、肺など全身に波及していきます。
これらは腫瘍性疾患であり、通常日和見感染症には分類されませんが、ウイルスがその発症に大きな役割を持っておりウイルス感染症としての性格も大きいものです。
エイズ関連日和見感染症 真菌症
エイズ関連日和見感染による真菌症には、カンジダ症、クリプトコッカス症があります。
カンジダ症は、口腔、食道に好発し、特徴的な白苔が見られるため診断は容易です。
治療には、アゾール系抗真菌薬が用いられ著しい効果を示します。
クリプトコッカス症は、多くのエイズ患者の場合、髄膜炎を含む全身感染症の一部としてみられます。確定診断としては血中、髄液中のクリプトコッカス抗原の検出が有用です。
治療は抗真菌薬を用いて行われ、治療後も予防的に継続内服することが勧められます。
エイズ関連日和見感染症 非定型抗酸菌症
エイズでの非定型抗酸菌症は、サイトメガロウイルス感染症と同様、免疫能がほぼ廃絶に陥った段階(CD4陽性Tリンパ球数が50個/μL以下)で発症します。
大半はMAC(Mycobacterium avium-intracellulare complex)によるものです。エイズ感染者におけるMAC感染症では、肺に限局して発症する非エイズ症例と異なり、多くが全身性となり肺に限局するのはわずかであるという特徴があります。
治療は抗菌剤を用い、多剤併用療法が行われます。
エイズ関連日和見感染症 結核
エイズ患者の結核罹患率は非常に高いものです。潜伏感染の再活性化、外来性の感染のいずれの可能性もあります。
エイズ患者の結核の病態はCD4陽性Tリンパ球数と関連しており、200個/μL以上では通常の結核の症状を示しますが、200個/μL以下では、肝、リンパ節、髄膜などの肺外結核の増加、ツベルクリン反応の陰性化など特異な病態を示します。
治療は、抗結核薬の内服で行われ、治療後の予防的内服も行われます。
エイズ関連日和見感染症 サイトメガロウイルス感染症
サイトメガロウイルス感染症は、免疫能がほぼ廃絶に陥った段階(CD4陽性Tリンパ球数が50個/μL以下)で発症します。
サイトメガロウイルスは広範囲の組織に親和性があり、多くの臓器に病変を発生させますが、特に網膜炎が多くみられます。
サイトメガロウイルスによる網膜炎では、網膜に滲出性病変や出血(滲出型)、顆粒状病変(顆粒型)を生じ、最終的には失明に至ります。そのため、CD4陽性Tリンパ球数が50個/μL以下では定期的な眼科検査が必要です。
治療は、有効な抗ウイルス薬(ガンシクロビル、ホスカルネット)を用いて行われます。
エイズ関連日和見感染症 カリニ肺炎(PCP)
カリニ肺炎(PCP)はPneumocystis carinii感染によって生ずる肺炎です。Pneumocystis cariniiは幼少期にほぼ全員が不顕性感染して無症状のまま潜伏感染していますが、HIVに感染し免疫能が低下(CD4陽性Tリンパ球数が200個/μL以下)すると、Pneumocystis cariniiが再活性化して肺炎を発症します。
症状としては、発熱、呼吸困難、乾性咳嗽があげられます。確定診断はPneumocystis cariniiの検出で行われ、気管支肺胞洗浄液を用いた検査が陽性率が高く、またPCR法も実用化されています。
治療は抗菌剤の点滴、経口で行われ、副腎皮質ステロイドが併用されることもあります。
カリニ肺炎は容易に再発するため、予防的治療薬の内服が行われます。
HIV感染でみられる日和見感染
HIV感染でみられる日和見感染には、カリニ肺炎(PCP)、サイトメガロウイルス感染症、結核、非定型抗酸菌症、真菌症、悪性リンパ腫、カボジ肉腫などがあります。
選択的帝王切開による母子感染の防止
HIVの母子感染は、妊娠末期(特に妊娠35週以降)の子宮収縮などで母体血が胎児側に流入しやすくなる時期から分娩時にかけてが最も可能性が高いと考えられています。そのため、HIV感染妊婦で、感染徴候がなく、切迫早産、子宮内胎児発育遅延が認められない症例では、陣痛発来前の35週前後に帝王切開分娩を行えば、母子感染を防止できる可能性が高いと考えられています。
日本における症例数は未だに少ないのが現状ですが、海外では、選択的帝王切開は特に抗HIV剤との併用において母子感染予防に非常に有効であると報告されています。
しかしながら、術後合併症発症率の増加など多くの問題が残されています。
CDC(アメリカ疾病管理予防センター)の推奨するHIV母子感染対策
CDC(アメリカ疾病管理予防センター)の推奨するHIV母子感染対策は以下のとおりです。
1)抗HIV療法をしていない感染妊婦
できるだけ早く(妊娠14週以降)AZT投与、またはAZTを含む多剤併用療法を行う。
2)妊娠中抗HIV療法をしなかった感染妊婦の分娩時
分娩時にAZTを静注する。新生児にAZTを投与する(6週間)。
3)妊娠中・分娩時ともに抗HIV療法をしなかった感染妊婦より出生した新生児
出生後、できるだけ早くAZT投与、またはAZTを含む多剤併用療法を行う(6週間)。
少しでも早い抗HIV剤の予防的投与が母子感染防止には有効です。
抗HIV剤による母子感染の防止
HIVの母子感染を防止するためにはそのリスクファクターを低下させることが必要ですが、実際には抗HIV剤による母子感染の防止対策が広く行われつつあります。
抗HIV剤による母子感染の防止には、逆転写酵素阻害剤であるAZTまたはAZTを含む多剤併用療法が行われます。
また近年HIV感染症の治療には、HAART(highly active antiretroviral therapy、高活性抗レトロウイルス療法)と呼ばれる多剤併用療法が推奨されており、これも母子感染防止に有用であると考えられ、現在検討が行われています。
HIVの母子感染の防止
HIVの母子感染の防止法としては以下の項目があげられます。
@母体への抗HIV剤の投与
A陣痛開始前の帝王切開
B児の完全な消毒
C児への抗HIV剤の投与
D授乳の禁止(人工栄養への切り替え)
これらを組み合わせることにより母子感染率約2%にまで母子感染を防止することが可能なことが明らかになっています。
HIVの母子感染のリスクファクター
HIVの母子感染のリスクファクターとしては、破水後4時間以上経過した分娩、分娩中の血液への暴露、母体の麻薬常用、絨毛羊膜炎、HIV-RNAの高値、CD4陽性Tリンパ球数の低値、抗HIV剤非投与、低出生体重児、母乳栄養児、選択的帝王切開の不適用があげられます。
HIVの母子感染の機序
HIVの母子感染の機序としては以下の3つがあげられます。
1)子宮内感染(経胎盤感染)
2)分娩時の経産道感染
3)産褥期の経母乳感染
本来胎盤は感染のバリアとしての働きがありますが、感染などさまざまな原因で胎盤に異常が起きるとそのバリアが破れ、HIVに感染しやすくなります。
HIVの母子感染は、妊娠末期(特に妊娠35週以降)の子宮収縮などで母体血が胎児側に流入しやすくなる時期から分娩時にかけてが最も可能性が高いと考えられています。
HIVの母子感染
HIVは、その母子感染率が20-40%と、各種母子感染性疾患の中でも高い感染率を有する疾患です。また母子感染による児の予後は、成人のHIV/AIDSの経過とは異なり、生後数年で死亡します。
現在では、感染防止対策の検討が進んだ結果、母子感染率約2%にまで母子感染を防止することが可能なことが明らかになっています。